SCENE102
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時間帯に応じて緻密にコントロールされた照明が空間を演出する。 [左]昼の照明  [右]夜の照明Photo:Nacasa&partnersり、屋外にはベンチやテーブルは設置されず、学生は広い階段や低い塀に自由に座り、芝生の上でくつろいでいるのが日常の風景です。そのため「ゼロスペース」のベンチも人の動きや流れに寄り添い、様々な関係に対応できる緩やかな形をイメージしました。そこで川の流れと石のイメージから、以前河原で拾った小石の形状をトレースしたものを含め、座って一休みするものから上で寝転がることができるものまで、石ころを模した大小様々なベンチをデザインしました。これらをスペースの中央に置くことで、多様な領域をつくることを意図したわけですが、実際、学生個々にベンチを動かしそれを実践しています。また、以前、通路となっていた中央部をくつろぎの場とするには、ベンチを置くだけでなく領域をつくる必要があると考えましたが、それはパーティションのような物理的な仕切りではなく、エリアを感じ取ることがこの場にはふさわしいと考えました。そこで天井にエリアを示すゼロ型の白いサークルを吊り下げ、サークル内に石ころを集めることで、中央が休憩エリアであることを理解できるようにしました。白いサークルが空間に明快な中心性を生み出し、自然と人と引き込むのかもしれません。さらに、心地よい空間をつくるため、自然光が時間によって射し込む光の量や強さを変化させるように、人工光がゆっくりと4つのシーンに切り変わるよう照明をプログラムしました。これにより午前中は気持ちのよい自然光が充分に射し込み、夕方からは静かな光に、一日の終わりはベンチのある中央をやや華やかに、そして静かに活動を終息へ導くような照明を演出しています。「ゼロスペース」は、従来、異なる用途に使われていた空間を、その場所のポテンシャルを読み込んで新たに置き換えた事例となりました。この空間で周囲の教室や行き交う学生との関係性ができ、「新しい役割」を与えることになりました。どのような建築にも潜在的な価値があり、それが経年変化により機能しない、利用されないケースはあると思います。私たちが立ち止まって考えることで、そのような建築や空間に新しい可能性や魅力を見つけ、生きた空間へと変化させることができるのではないでしょうか。リノベーションは周囲との関係性や、手に入る素材、工法などが空間の着地点へと導いてくれることがあります。空間がヒントをくれるのです。空間づくりの過程にある出会いのようなプロセスに、デザインすることの面白さも感じることができます。建築や空間に新しい可能性をインテリアデザイナーイガラシデザインスタジオ代表武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科教授五十嵐 久枝 氏Igarashi Hisae桑沢デザイン研究所インテリア・住宅研究科卒業。1986~91年クラマタデザイン事務所勤務。93年イガラシデザインスタジオ設立。幅広い領域で空間デザイン・インスタレーション・家具デザインに携わる。主な仕事に、TSUMORI CHISATO、武蔵野美術大学「ゼロスペース」、PEACH JOHN東京オフィスのインテリアデザイン、TANGO、baguette life、AWASE、AS YOU AREの家具デザインがある。※記事内で紹介されたベンチの詳細については、弊社営業までお問い合わせください。14

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