SCENE66
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03SCENE教養教育の中核は、独自の授業内容や教育態勢 やはり、大学で一番大切なものはカリキュラムです。徹底して教養教育(リベラルアーツ)を重視しています。教養教育は、学生が自己発見のために広く深い学問的素養をつけるうえで、重要だと考えるからです。しかし現在の日本では、多くの大学の学部で教養教育が軽視され、学部教育が空洞化しています。本来の学部教育を取り戻すためにも、教養教育を充実させなければなりません。本学の授業科目は、人文社会系から理系まで幅広く、人口学や紛争予防外交論など将来の社会に必要な授業科目も揃えています。カリキュラムの流れは、EAP 終了後、2年次に基礎教育を幅広く学ぶことで様々な視点を養い、3年~4年次に専門教育と留学で自らの専門を見出して知識を深めるというかたちが標準的です。インターナショナル・コードをカリキュラムに付けていますから、外国からの留学生は国際教養大学のホームページで、どんな授業が受けられるかが分かります。 また学生には、1年間の海外留学を義務づけています。卒業単位は124単位ですが、そのうちの四分の一を海外で取る必要があり、これはかなり厳しいことです。留学は、TOEFLの550点をクリアすることが条件ですから、学生たちは一生懸命勉強します。課題もたくさん出ますから、いつでも勉強できるように、図書館とコンピュータ室は24時間365日開くようにしました。 学生一人ひとりをサポートするために、少人数授業、アカデミック・アドバイジング・システム、学習達成センター、キャリア開発室などの態勢をつくって臨んでいます。アカデミック・アドバイジング・システムは、全ての教員が自分の生徒を持ち、生活から勉強・進路まで全ての相談を受けるという制度です。教員は年俸制で、全員で知識をシェアしたり、教員同士の授業見学や学生の評価などが日常的に行われ、一種の緊張感があります。目標は就職ではなく、大学で体験し培われる人間力 卒業基準が厳格なので今年も50パーセントの卒業率ですが、OECD諸国※では普通ですし、決して悪いことではありません。留学から帰った後に、急いで就職活動をして卒業するということは、スケジュール的に大変なことです。大学生活を充実させるためには、多少卒業が遅れてもかまわないと思っています。現在は、卒業するまで企業が待ってくれるようになりましたから、学生も就職を気にしないでゆったり大学生活を送れるようになりました。学生たちは、留学で数々の体験をして価値観が多様になり人間的にも成長します。だから留学後でも進路を変えることができるような柔軟性を、カリキュラムに持たせました。 学生の就職内定率100%が巷の話題になっていますが、それは主たる目標ではありません。大学生活の成果としての卒業が、ひとつの大事な目標であり資格となります。勉学に打ち込んで異文化体験を重ね、そこで得たコミュニケーション力や自分の意見を言える積極性が、企業に認められたのです。「実にいい学生を採用できたから、これからもよろしく」と企業から言われると、学長として非常にうれしいですね。国際教養を理念に、名実ともにトップクラスの大学へ 本学と国際基督教大学、立命館アジア太平洋大学、早稲田大学国際教養学部の4大学が今年4月に、真の国際人養成を目指して連携協定を結びました。これから求められるグローバル化は、全世界があっという間に繋がる「立体的な概念」です。それに比べて国同士を結ぶ国際化は、水平的な概念と言えます。世界がひとつになればなるほど、逆にそれぞれの国や地域の文化に基づくアイデンティティーを持つことが大事になってきます。そういった人材を育てることが大学の本来の役割です。 また、国際貢献と地域貢献どちらも大事にしていますから、留学生も含めた学生の地域貢献はとても盛んです。中山間地域での米作りや伝統芸能への参加、小中学校で英語の授業をアシストするなど、これらは単位にも反映されます。地域の文化を学ぶ環境としては、ここが東京でなく秋田だから却ってよかったのではないでしょうか。国際教養大学は、東京から飛行機で50分、秋田空港から車で10分ほどで来られる緑豊かな場所にあります。私は常々、大学が置かれる環境や景観はとても大事だと思っています。 将来は、国際教養※を理念に、リベラルアーツの大学として世界でトップクラスの内容にしていきたいと考えています。それが日本の人材育成にとって必要だからです。学生には、内向きではなく世界に太刀打ちできる若者に育ってほしいと願っています。※OECD:Organization for Economic Co-operation and Development (経済協力開発機構)の略。OECD諸国の大学卒業率では、日本が91%と一番高く、先進国は50%前後。秋田杉の森に囲まれメタセコイアの大木がそびえるキャンパスでは、晴れた日は戸外での授業も多く、学生のアイデアを引き出すきっかけにもなっている。※国際教養: International Liberal Arts。学長自身の構想による高等教育の新理念で、1.外国語とりわけ英語で自由かつ積極的にコミュニケーションできる 2.幅広い教養を身につけ様々な視点から物事を深く捉えられる 3.グローバル化に対応する自分自身の専門分野を見出して知識を深めることをめざす。講義棟(新講義棟)外殻のコンクリート造りの中に木造を入れる「入れ子構造」。建物の耐久性を高めながら、木造の温かさと陽光の明るさが調和した空間をつくり出している。Akita International University公立大学法人 国際教養大学

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