SCENE69
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“E棟”は竣工後の名で、設計時には“新総合棟”と呼ばれていました。移設・新設される食堂、300人規模の大きな教室、多目的に使えるホール、さらに情報教室等を組み合わせた複合施設を目指していたからです。 私たちは、プロポーザルに参加するに当たって、キャンパス周辺を歩き回りました。敷地は郊外の住宅地ですが、南側には手つかずの多摩丘陵の自然が残っていました。キャンパス内に目を転じると、そういった自然が活かしきれず、丘陵の尾根部分に校舎が密集した窮屈な構成になっていました。そこでまず、この固まった部分を組み解くことから考えました。合わせて、キャンパスの周りを緑の回廊が巡る全体計画も提案しています。コンセプトは「敷地全体を有効に使うために、キャンパスの周囲や建物の外に開かれた場をつくること」です。そうすれば、キャンパス全体がもっと自由に使われるようになると考えたからです。ですから、E棟に隣接する旧食堂の跡地も、新たな建物ではなく緑の中庭にしたらどうかと提案しました。斜面を生かして芝生広場にし、その底にE棟を建設して、既存施設とはブリッジでつなぎました。棟内やブリッジからは、広場を行き交う学生たちの姿が見えます。これは今までにない、新しい和光大学の風景だと思います。 プロポーザルで提案した卵型のデザインについては、様々な条件下で規模は縮小しましたが、敷地に馴染む圧迫感の少ない建物が実現しました。和光大学は学生と教員の距離が近いので、教室に限らず食堂など様々な場所に教学の場が生まれています。卵型の建物は、こうした学風に合っているのではないでしょうか。 予算の関係から当初は鉄骨造で計画していましたが、RC(鉄筋コンクリート)造に変わりました。RC造にしたのは、不定型なかたちを合理的につくることを考えたからです。また、地域の防災センターとなるような、強固な建物にしたい、という、内藤の強い思いもありました。壁柱(柱と壁で構成)の厚みは地下で最大60㎝にもなります。壁柱は階上になるにつれて負担が減っていき、これが各階の空間づくりにも影響しています。1階は開口部が少なく、2~3階と徐々に増え、4階が最も開口部の多い空間となっています。講義や会議が中心となる1階は最低限の開口で少し落ち着いた明るさに、逆に食堂のある4階は食事や休憩のために開放的な明るさになりました。 1階の大教室や4階の食堂を大空間とするために、RCの梁にはプレストレストコンクリートを採用し、梁に緊張力を導入することで最大約18mスパンを実現しています。2~3階の情報教室群は将来変わる可能性が高いと想定されたため、鋼製パーティションの壁を設置して、間取り変更が可能な構造にしました。食堂╱テーブル:特注品、イス:リシオリーナ旧食堂に替わり、最上階の4階に新設された。1フロアを使い広々とした空間で、窓の多い明るい室内となっている。イスとテーブルは、旧食堂と同様にシンプルなデザインを採用。色を白で統一し清潔感が出るようにした。旧食堂で使用していたものをできるだけ移設して、きれいに磨き上げて継続使用している。特にテーブルは、フレームのみをリユースし、天板はこの場所に合わせたサイズの大きなものに取り換えている。全体計画から導き出された新棟の姿基本的な構造を方向付けたRC造INTERVIEW(株)内藤廣建築設計事務所設計担当チーフ蛭田 和則氏10SCENE*

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