SCENE69
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2~3階のメディア室群E棟の2~3階は、情報関係の教室が並び、スタジオも備えている。2階が赤、3階が青を基調としたデザインで、モノトーンのインテリアの中、サイン的な役割も担っている。廊下に面したガラスは、特注のドットプリントのフィルムが貼られ、室内は見えにくいが透過性により連続感を演出。将来的な用途変更が可能なように鋼製パーティションで各部屋が仕切られている。 外からブリッジを通って、E棟の3階に入ってくると、吹抜から光が入ってきて「気持ちいいところへ来たなぁ」と思う。そういったのびやかな空間演出も心がけました。建物の基本動線は単純な十字型で、EVを1基に階段室を2つ、廊下の幅も広く取っています。講義を終えた学生や、災害時の人の流れを妨げないことを念頭に置いています。 建物に対する考え方がシンプルなので、建築素材もできるだけ限定しました。まず打ち放しコンクリートですが、普通型枠を使った荒い素材感のものを採用しています。他の素材は、ガラス、木、鉄、プラスターボードなどの構成材、床のタイルカーペット、天井の岩綿吸音板といったくらいですね。落書きにもへこたれないような強い素材感を持たせることを目指しました。家具や手すりなど、人に触れる部分は木など自然素材を使っています。また天井は、一般的な張り方をせず、リブ状の吸音板を躯体から吊り下げて、空調やダクトを最低限隠しながらメンテナンスが容易にできるようなシステム天井を考えました。特に照明については高さを細かく調節して、光源が目に入りにくい照明計画をしています。 全階の周囲を巡るバルコニーも特徴的です。庇として直射日光を調整するほか、各部屋から自由に出入りでき、災害時の避難経路にもなります。 エネルギー供給が逼迫しても基本機能が維持できる建物こそが、サスティナブルだと考えています。ですから、主に自然な方法で省エネルギーに配慮しています。バルコニーには庇の役割がありますが、さらに外周の手すりにもルーバーを付けて直射日光を調整しています。また、バルコニーの掃き出し窓には網戸が付けられるので、気候がいい時期には自然換気が最大限利用できます。そのほか、全体の熱を逃がすために、塔屋に排煙窓を設けて排気ができますし、屋上を被う芝生が輻射熱を防いでくれます。唯一の人工的な省エネシステムが、「クールチューブ」で、地中に埋設したパイプを通して外気を建物内に取り込みます。夏は吸気熱が2~3度下がり、冬は逆に上がって、空調の負担を減らしています。 また、キャンパスの豊かな自然を、E棟を使う誰もが享受できるようにしたいと考えました。各部屋から望む様々な借景ができるだけ美しく見えるように計画しています。特に1階レベルは周囲にすり鉢状の造成を行い、外構の整備にもこだわりました。これにより隣接する小田急線からの騒音をブロックする効果も生まれています。 結果的に、しっかりとした矩体を持つ、シンプルで力強いデザインの建物ができたと思います。限られた条件の中で余分なものが削ぎ落とされ、アイデアを大学と出し合いながら設計を進めることができたからだと考えています。建物を機能性だけで捉えれば確実に古びていきます。そこにある種の精神性をどう反映させていくかが、建築にとっては大切であると考えています。建設地に植えられていた生き証人のようなケヤキや多くの樹木を保存して、建設後には元の場所の近くに移植しました。そういったこともこの大学の精神性と繋がるのではないでしょうか。 また建築において、全体と部分の繋がりは重要です。学生たちが過ごす空間は、建物の外へさらにはキャンパスから地域へと繋がっているからです。これからの大学は、施設とともに地域に開かれてその核となり、様々な人たちが集まれる場になってほしいと願っています。明解な発想でシンプルな空間を演出地域に開かれた存在感あるキャンパスへ自然力を最大限利用した環境計画*を除く写真提供:(株)内藤廣建築設計事務所11SCENE***

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