SCENE71
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なぜ、アクティブラーニングが必要か? 日本の大学教育において早急に対応すべき課題として、教養教育のあり方と方法の見直しがあげられている。複雑な人間活動や多様な情報が氾濫する現代社会に通用する人材を育成するには、専門分野の枠組みを超えて総合的な力を身につけることが必要とされるからである。 そのためには、対人・対情報リテラシーや技術が正しく使え、能動的に学習に取り組み、自らの立場を明示しつつも違う考えを持つ人々と協調して学習できる、という基礎能力が不可欠になる。こういった能力を養える教育手法や環境をつくるうえで、重要な鍵となってきたのが「アクティブラーニング」である。 アクティブラーニングとは、“従来の一方向的な講義形式と異なり、学習者の能動的な学習参加を取り入れた教育方法”である。自らの課題に関する情報を集め、それらを読解して書き記し、学生同士や教員との討論を通して分析・評価し、その成果をまとめて発表していく。したがって、学生と教員のコミュニケーションは双方向的であり、その場でフィードバックし合えるような講義を目指す。 アクティブラーニングを効果的に行うには、学生と教員の授業活動に柔軟に対応できる教室環境の整備が必要となる。そのコンセプトは3つあり、①教養教育の多様な授業や授業形式に対応できるフレキシブルな教室空間の整備 ②問題解決に向けて思考する活動をアシストするソフトウェアの提供と学生の利用支援 ③電子黒板やプロジェクターなどを使い、考えや討論内容を可視化して共有すること、とされている。 多彩な環境と機能を持つアクティブラーニングスタジオは、一般教室とは区別して、「スタジオ」と呼ばれている。廊下側が全面ガラスになっていることが多く、通りすがりにのぞいて興味を持ってもらうことをねらう。学生も教員も、そういった新たな環境に対応するうちに講義の受け方・仕方が変わり、今までにない講義の形を共に創り出していくのである。 また、アクティブラーニングを効果的に進めるには、ICT(Information and Communication Technology)設備の活用が欠かせない。膨大な資料の中から必要なことを検索したり取り出したりする、あるいは様々なことを関連づける、さらには教員と学生間のコミュニケーションにと、多方面に利用できる。 国内のアクティブラーニングは様々な大学で行われているが、東京大学では、2007年に開設した「駒場アクティブラーニングスタジオ(KALS)」が最初の取り組みとなる。既存の教室を改修したスタジオは、授業が展開されるスタジオ、それを支えるバックヤード、学生の待合い場所であるウェイティングルームで構成されている。バックヤードには、授業を支えるスタッフルーム、教材作成や授業の打ち合わせを行うミーティングルーム、および倉庫がある。 こうした教室環境は、能動的な学習に不可欠であるとともに、継続利用されることも重視点となる。そのためには、学生や教員が利用しやすいように、支援体制を整えていく必要がある。また、行われた授業のデータを蓄積して分析し、学生や教員から意見を集めて、より質の高い授業を楽しめるようにすることが望まれる。 次回は、アクティブラーニングが実際の授業でどう行われているのかを紹介したい。最新・教育事情アクティブラーニング第 1 回※第1回は、東京大学教養学部附属教養教育高度化機構 アクティブラーニング部門の特任助教・林一雅氏に監修していただきました。 第2回は「行われている授業」、第3回は「空間や家具およびICT環境」について掲載予定です。■ 総合力が身につく、アクティブラーニング。■ 学生と教員が共に授業を創る、アクティブラーニングスタジオ。■ アクティブラーニングを継続し、より質の高い授業へ。KALS配置図ウェイティングルームスタジオスタッフルームミーティングルーム倉庫15SCENE

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