SCENE75
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机や教員が使っていた濃緑色のビロード張り椅子などが再生し活用されていきました。これだけ多くの家具を再生するのは初めてなので、先ずプランニングして学校と相談し、家具ごとに修繕方法が異なるのでサンプルで何度も試作しました。机を磨くと各時代の落書きが表れてきて、なかなか興味深い仕事でした。 新しい空間に新規の家具が合う場合は、そちらを採用しました。しかし家具は、長年使うと落ち着いた風合いになってきます。そういった学校の歴史を表象するような家具やインテリアに同調できる素材、例えばウォールナットなどを選びました。構造も、既存家具と同期間使えるように配慮しました。デザインは、現代的でかつ灘中学校・高等学校らしい質実剛健な意匠としています。 新築した3号館と西館が、伝統的な本館や1号館と差がないように見えることに気を配りました。設計するうえで、新築らしい目立つことは一切していません。古い建物との連続感が持てるよう、本館のアール・デコの要素を少し取り入れたり、太陽光で陰影が生きてくる奥行きのある部材を使用したりしています。 リニューアル工事は仮校舎を作らずに行ったので、生徒や教職員の方たちは引っ越しの連続でした。2年近い工事期間中も、生徒たちは自主性と自立心を持って学校生活を続けていましたが、これは灘校生ならではと感心しました。また、6年間一貫校だから、生徒の学校生活全部の3分の1に迷惑をかけるだけで済んだのではないかと思っています。 改修をメインとしたプロジェクトでは、そこに暮らす人たちが心地良く過ごせる舞台を作ることが目的ですから、建築や家具が出しゃばらないことが大事なのです。生徒たちの学校生活が良い方へ向かうように、建築や家具が背後から“風を送る”くらいが適切なのではないでしょうか。その風が、彼らの将来に何らかの影響を与えてくれるのではと考えています。図書館 1.3 イス、テーブル:特注品、書架:特注品 2 ソファ:特注品、湾曲書架:特注品 4 壁面展示架:特注品、柱面展示架:特注品 5 ブラウジングコーナー/ソファ:特注品、雑誌架:特注品 6 専門書コーナー/濃緑色のビロード張り椅子は再生家具。デスク:特注品45236リニューアルでは、建築や家具の役割は舞台づくり。Photo:1.2.3.4.5 (株)ナカサアンドパートナーズCULTURAL SPACE QUEST 08

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