SCENE76
15/32

剖学や分子生物学の研究者です。2004年にNPO法人となりましたが、それ以前から色覚バリアフリーデザイン活動をいろいろ実践してきました。その目玉と言えるのが「東京メトロ」の路線表示でした。2004年、「営団地下鉄」が民営化され「東京メトロ」に変わって看板を付け替える時に、色覚バリアフリーデザインを採用するよう都議会へ提案したのです。「東京メトロ」は9路線を運営し、8路線以上の色による識別は多数派の一般色覚者でも難しくなります。少数派も多数派も分かるように、色分けしたうえで番号を振ることにしました。 今、緊急課題のひとつが、津波や地震時に使う誘導表示や災害マップの色です。東日本大震災の教訓から、注意報と警報は表示色を明確に分けることが重視されています。なぜなら、注意報時には助けや確認のために入ることができますが、警報時には立ち入り禁止になるからです。この識別は命に係わります。特に、この時に使われる標識の赤や黄色の点滅は、赤に独自の色覚を持つ色弱者にとって、瞬時の識別が難しい状況となります。周囲が暗く位置情報が取れない時には色だけが判別情報になり、見た色刺激を即座に色名に対応させるのが難しいのです。また、今まで津波警報は赤色を使ってきたので、大津波警報を別色にするための検討がされましたがなかなか決まらず、現在は黒や赤紫を使っています。しかし、色があった方が多数派には見分けやすいので、いずれは変えたいと思っています。 日本では、長年、小・中・高校で色覚検査が行われていましたが、色覚についての正しい知識を一般の人が持っているわけではなく、色覚による制限も緩和されたこともあって2002年に廃止となりました。それ以降、色弱の子どもたちは自覚せずに成長していきました。また疑いを持っても、色覚外来の眼科は全国に数カ所しかなく、受診が難しいのです。そこで私が心配しているのは、色覚に関する問題がなかなか社会的な話題に上ってこなくなったということです。今の大学は美術系でも理工系でも色弱者を受け入れているので、私が在籍する情報デザイン学科でも、例えば同色のブロックを繋げて消す携帯のゲームが思ったようにプレイできないことから色弱が発覚したりすることがあります。その時も「ゲームソフトに原因がある」として、機会を逃さず、ソフトの色の改善などに学生と共に取り組んでいます。 現代はあらゆるものがカラーとなり、色が溢れています。テレビのリモコンボタンにも、赤系や緑系など色弱者の苦手な色が使われており、やむなく文字も付けてもらった結果、二重表現になってしまいました。私はこれをデザインの敗北だと思っていて、多数派にも少数派にも情報を正確に伝えたうえで、美しいデザインをすることが大事だと考えています。第3回は「カラーユニバーサルデザインの今後」について紹介します。誰にでも識別でき、かつ、美しいデザインを。一般色覚者C型色弱者P型一般色覚者C型色弱者P型路線名と駅番号路線名と駅番号一般色覚者C型色弱者P型テレビのリモコンボタンの見え方の違い東京メトロ路線図の見え方の違い 写真2黒板にカラーチョークで書いた場合の見え方の違い 写真3CULTURAL FILE 14

元のページ  ../index.html#15

このブックを見る