SCENE80
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 能楽堂が他の劇場と大きく違うのは、“暗転”を使わないことです。なぜなら、能楽はそもそも屋外の自然な明るさのなかで行われ、能舞台と見所※が一体となって楽しむという日本独自の芸能として発展してきたからです。夏に行われる「薪能」でも、野外の闇のなかで行われる公演の方が、演出効果が大きく人気もあります。天候などの屋外リスクを避けるため、明治以降は屋内に能楽堂として建設される場合が増えましたが、舞台と見所の間に幕はなく、一体となって楽しむ環境は変わりません。 また、能楽堂には、自然の理に適った演出が形として残っています。例えば「白州」。現在は玉石が敷かれていますが、元来は水辺であり、屋根の下の舞台を太陽光の反射で照らすという意図があったと言われています。 私は、宝生能楽堂の改修に当たり、まずポリシーが大事だと考えました。改修前の見所は、座席に白いカバーがかかり、床のカーペットはレッドでした。カバーの白が目立つので、舞台は映えませんし、カーペットのレッドは、華やかですが日本古来の文化とは言えません。これでは、舞台と見所が一体となって楽しむ環境は得にくいと思いました。“舞台を浮き上がらせ、お客様の心に残る能をいかに伝えられるか”を追究するには、本来の劇場環境である自然の色合いを基にした空間づくりが最適と考え、“アースカラー”をテーマに見所を改修しました。座席と床の色を大地の色調にし、そこから木が生え葉が茂ることをイメージしています。東京には、宝生能楽堂以外に国立をはじめ多くの能楽堂がありますので、能楽堂自身のアイデンティティーが重要となるのです。宝生流二十代宗家寳生 和英 氏Kazufusa Hosho能楽を育んだ自然をテーマに、舞台が映える観劇空間を。12※見所:能楽の観客エリア。自然のなかで独自に発展してきた能楽“アースカラー”を背景に引き立つ能舞台けんしょたきぎのう1 改修前 2 改修後03 NEW TREND

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