SCENE80
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白州正面脇正面中正面舞台橋掛り舞台橋掛り 能楽の特徴のひとつに、他の演劇に比べて観賞時間が長いことがあげられます。お昼頃に始まり、休憩を挟んでいくつもの演目が続き、最長6時間ほどかかります。そこで、35年にわたって支え続けていただいたお客様へのホスピタリティーを最も重視することに決めました。 まず、“長時間の観賞にふさわしい座席”を、女性のお客様で和装の方を想定して用意しました。当初は軟らかい座席がいいのではという声もあったのですが、答えが出せなかったので、硬と軟の2タイプの座席サンプルを持ち込んでもらいました。いろいろな方に座っていただいた結果、硬めの座席の方が、腰への負担や和装の着崩れが少ないことが確認できました。また、背もたれの角度も、今までより少し立てた方が観やすいことも分かりました。 次に取りかかったのが、座席の表示システムの変更です。能楽堂の座席は特殊な配置になっており、舞台に向かって右から正面、中正面、脇正面の3区画に分かれています。普通は、「正・ち・7」というように区画名・列名・座席番号で表示されます。しかし今までは、別の区画にも同じ番号を用いたので、お客様が間違えるケースが時々ありました。そこで、3区画すべての座席番号を“通し番号”に変えることで対処することにしました。これは、2020年の東京オリンピックや海外のお客様の利用を見すえた対応でもあります。 装い新たな宝生能楽堂は、落ち着いた色合いで高級感があります。そして、能舞台がいっそう明るく際立つようになりました。壁面は以前と同じ土壁のような質感のままですが、お客様から「壁も塗り替えたの?」と聞かれるくらい、改修後の環境に合っています。この能楽堂は、能楽師の舞台環境やお客様のアクセス面では高評価で、座席にやや課題を残していましたが、これですべての環境が整いました。お客様には、能の観賞はもちろん、劇場空間や演目の背景そして能楽の歴史などにも関心を持っていただけたらと期待しております。 お客様により満足していただくために、至芸はもちろん、お客様の心に残るような空間演出やコンテンツづくりにも取り組んでいきたいと思っています。 例えば映画では、ストーリーを分かりやすく見せることでスムーズな感情移入を図っていますが、能でも、演目の物語を体感できるような演出ができたら、より心に残る公演になるのではないでしょうか。見所への扉が開いたところから能の物語はスタートし、大地や木々が包み込むような空間で、お客様が登場人物に引き込まれていくような姿を想定しています。 私は能楽師として、五七五調の謡に乗せて演じる能の伝統を重んじています。しかし今後は、クリエイティブな発想も求められるようになります。一新された能楽堂で、現代に息づく能をお客様に体感していただけるよう心していきたいと考えております。354お客様の立場で決めた、客席の座り心地と座席表示。最上の劇場空間で、より心に残る能の新体験を。和装でも快適に長時間観賞ができる座席を海外のお客様でも見つけやすい座席表示にすべてが整った環境でひとつ上の能観賞を伝統を踏まえたうえで“体感できる能”を創造うたい3 ホール客席:ATS-1037DR特注品 490席 4 列番プレート 5 席番プレート座席配置図NEW TREND 04

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