SCENE83
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空間デザインに携わるプロが連携して空間を演出。また、新校舎は白を基調にした美しい現代建築ですが、女子大にしては少しクールすぎるというのが私の第一印象でした。そこに色彩が際立つサインデザインや家具、女子大らしい学生のファッションが色を差すことで、彩りやリズムを生みだすことができると思ったのです。しかし、私も含めインテリア・照明デザイナーなど、空間づくりに携わる者が互いに境界を引いてしまうと、できあがった空間に一貫性が生まれません。その点、今回は基本設計から空間デザインすべてをコントロールする総合監修者として、実践女子大学の教授である建築家の高田典夫先生が携わっておられました。襲色目をテーマにしたサインデザインの提案も高田先生に気に入っていただき、空間デザイン全体に活かせるよう、インテリア・照明デザイナーとも話し合う機会を設けてもらいました。境界を越えて提案できる環境が整ったことで、イメージを共有してスムーズな連携を図ることができたのです。たとえば、天井も壁も内装はすべて白、床もグレーのモノトーンで統一することでサインデザインの色彩を際立たせ、廊下の照明を落してもらうことで、空間にサインデザインが浮かび上がる効果を狙いました。絵画になぞらえ、アートギャラリーのような空間として楽しんでもらうことを意識したものです。食堂は壁面をサインデザインの基本色を用いてペインティングしており、ビビットな色彩の家具と調和し、楽しく賑わいのある空間を演出しています。学生が集う食堂やラウンジの家具を決める際も、色の選択や配色についてはサインデザインとのバランスを話し合って決めています。色や形で緩やかな理解を促すサインデザイン。さらに、今回のサインデザインの特徴は、50近い教室すべてを異なる色と形で表現し、エレベーターのガラスに施された各階を示すサインも白のラインのパターンで表現している点です。一見、数字や文字で表現する方が、サインの機能として高いように感じますが、それは不特定多数が利用する駅や空港などに限ると私は考えます。 毎日決まった時間割の中で同じ講義室に通う学生にとって、「次の授業はこのサインデザインの教室」という具合に、緩やかな理解を促しながら、確かな認識につながっていきます。内装の設えや色彩計画、家具などを活用した誘導方法を「ウエイ・ファインディング」といいますが、今回のように統一的な空間づくりが可能になったことで、ウエイ・ファインディングの機能も発揮できたと思います。現在、大学は厳しい競争にさらされているだけに、サインデザインが伝達の機能を超え、大学のアイデンティティを視覚化することに、私は意味を感じています。サインデザインを通して母校に対する学生たちの愛着を醸成し、他者には大学の理念や魅力をアピールする。大学の価値の創造に寄与するサインデザインを、これからも提案し続けたいと思います。サインデザインでアイデンティティを視覚化し、大学案内など印刷物などへ展開。実践女子大学のサインデザインは、現代にアレンジしたビビットな色彩を意識して18の基本色を選択。異なる2つの四角面を重ねて表現している(初期のイメージスケッチ)。09 CULTURAL FILE

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