SCENE84
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 木は、無機的な鉄筋コンクリートと違い、再生産できる有機的な「生物資源」です。しかし木は、自分自身を強くして外敵から身を守ることができるように、進化の過程で手に入れた実に神秘的な構造を持っています。木が、なぜこのような特性を手に入れたのかというと “動けない”からです。 動いて捕食することができない樹木は、葉から二酸化炭素を取り込み根から水を吸い上げて、グルコースというブドウ糖を作って自らを育て続けます。このグルコースから主にセルロース・ヘミセルロース・リグニンの3つの成分を作ります。鉄筋コンクリート構造に例えると、木の半分ほどを占めるセルロースは鉄筋のような骨格成分、リグニンはセメントのような充填成分、そしてヘミセルロースは親水性のセルロースと疎水性のリグニンをつなぐ成分です。 青々とした樹木からは想定できないかもしれませんが、細胞が生まれ変わって体が更新されていく人間と違って、樹木では分裂した細胞は程なく寿命を迎え、体内にどんどん蓄積されていきます。生きているのは樹皮のすぐ内側の形成層と葉っぱのみで、年輪の中心である幼木時代の「髄」から樹皮の少し手前までの細胞はほぼ死んでいるのです。「木の秘められた力」を解き明かす。人類より遙かに長い歴史を持つ「木」は、生きている間は「樹木」伐採後は「木材」と呼ばれている。その特性や性能にはいまだ解明されていないことが数多くあり、生命農学の分野では、秘められた木の力を活かすために様々な研究が行われてきた。木の性能を科学的に究め調和のとれた木材利用に活かすための研究および社会実現について、生命農学研究科の山崎真理子氏にうかがい2回連載で紹介する。「木」の力を研究し活かす名古屋大学大学院生命農学研究科 准教授山崎 真理子 氏Mariko Yamasakivol.1木の構造木は鉄筋コンクリートのような体を持つ。樹皮形成層髄15年輪目(秋田県立大学名誉教授・飯島泰男先生作成の図を元に再作成)ヒノキの樹林丸太建築用木材11 CULTURAL FILE

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