SCENE84
13/32

木の細胞(アカマツ)/セルロースはチェーン状の糸を束ねたような構造を持つ既存構造物における使用中木材の力学性能を、応力波伝播速度を用いて非破壊的に検査 人間も木も、放任していては社会で通用する人材や木材には育ちません。まず、人間は赤ちゃんから成人まで教育を、木は苗から成熟した樹木になるまで育林をすることが大事です。成人したら自分に適した職を探して就職するように、成熟した樹木が伐採され丸太になったら性能評価をして適材適所で活躍します。そして、加齢にともなって行う健診で、健全な状態か再利用は可能かを確認することなど、人間と木の一生には共通する考え方があるのではないでしょうか。 異なるのは一生の時間軸の長さで、人間は大体100年まで、木は100年~数百年になります。杉を例に育林過程の概略を言いますと、苗は数年で幼木に、幼木は10~15年程度で成熟材として使える樹木になります。さらに十分な太さの主伐期になるには50~60年はかかります。また、育林の過程では間伐が必要となり、活用が課題となっている間伐材が切り出されるのです。 建物の構造安全性を裏付けるためには、使用木材の荷重に対する力学性能(強度)を把握しておく必要があります。 材料の基本的な力学性能の検査には、「曲げ」「引張」「圧縮」「せん断」があります。木材の軸方向に引っ張ったり、圧縮したりする「引張」と「圧縮」。軸方向にずらすような力をかけて性能を調べる「せん断」。材料を曲げて性能を調べる「曲げ」は、凹側では圧縮が、凸側では引張の力が作用しています。日本の住宅は柱と梁が重要なので、柱には上下の荷重がかかる「圧縮」が、上からの荷重でたわむ梁には「曲げ」が作用しており、まずはこれらの性能を知っておくことが重要となります。さらに、木材の場合には、実物大の試験体と小さい試験体では強度を弱める欠点の量が異なるので、構造材の性能を知るためには実物大の試験体で行っておくことが大切です。 木を科学する楽しさは “光合成につきる”と言えます。例えば今、築300年の古建築で梁として使われている木材は、伐採以前すでに100~200年生きていたわけです。そうすると、500年ほど前の戦国時代の大気を固定※していると想像できます。目の前の梁にそのような思いを馳せると、私は木を尊敬してしまうのです。これは、宇宙から届いた過去の光をいま観ている感覚にちょっと似ていますね。 太古の昔から、植物は光合成による生産者であり、私たち人間を含む動物はその生産物の消費者です。そういった地球の生物循環の中に木と人間の関係があり、木は生きている間は人間に酸素を与え、さらに自身の身体を資源として提供してくれます。ですから人間の役割は、長年にわたる木材利用の知恵を活かして、どうしたら木の特性や性能を活かし調和の取れた木材利用ができるかを考えて工夫することです。 私たち研究者の多くは、「おもしろいのは、樹木に個性があり木材にバラツキがあること」だと言います。研究上は大変ですが、結果として分かる真実が興味深いからで、それをどう使いこなしていくかを考えることが研究者の大事な仕事です。人間と木の一生生き物である人間と木の一生は似ている?木材の安全性を実物大で調べる検査法を。木を科学すると何百年も前の大気に出会える。次回は、「木の本来の材料力を実社会に活かす」について紹介します。グルコースを作る光合成(WEBサイト・みんなの森〈データ編〉「森林のエコシステム」より)(文永堂出版「木材の構造」より)古建築の梁を検査実大曲げ試験曲げ破壊の様子※固定:樹木が光合成によりCO2を吸収し、自身の体を作ることを炭素固定機能と呼びます。CULTURAL FILE 12

元のページ  ../index.html#13

このブックを見る