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58年ぶりの全面改修により、快適な鑑賞環境を実現。SPACE QUEST 01KYOTO KANZE NOHPLAY THEATER公益社団法人京都観世会 会長片山 九郎右衛門 氏Kurouemon KatayamaPROFILE1964年、片山幽雪(九世片山九郎右衛門)の長男として生まれる。姉は京舞井上流五世家元井上八千代。幼少より父に師事し、長じて八世観世銕之亟(かんぜ てつのじょう)に教えを受ける。片山定期能楽会を主宰。京都府文化賞奨励賞、京都市芸術新人賞、文化庁芸術祭新人賞、日本伝統文化振興財団賞、京都府文化賞功労賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。重要無形文化財(総合指定)保持者。公益社団法人京都観世会会長、公益財団法人片山家能楽・京舞保存財団理事長。古くは戦前、京都・観世流の能楽師は、丸太町にあった観世能楽堂で活動しておりましたが、戦争が始まり重要施設が空襲で類焼するのを防ぐため、取り壊しの憂き目にあいました。以来、能楽堂の再建は京都の能楽師すべての悲願となり、京都観世会をあげての資金調達など苦労を重ねた末、1958年に「京都観世会館」の創建を果たすことができたのです。創建後、現在に至るまで、舞台の板の総張り替えや、冷暖房設備の刷新、駐車場の拡張など環境整備に取り組んできましたが、昨年の夏、実に58年ぶりに能楽堂の全面改修を実施しました。天井の改修に始まり、座席、床、床下の空調や照明も一新。座席は以前よりも幅が広くなり、体が沈んでしまうほど軟らかだったクッションも硬めのものにすることで、腰への負担を軽減しました。座席の背板の高さを低くして後ろのお客さまの視界を広げるとともに、床面まであった背板の下部にクリアランスを設けることで、これまで前の座席の背板で窮屈になっていた足元に余裕を持たせています。半世紀前のお客さまと現代のお客さまでは体格も変化しており、また一方では和装で鑑賞される方も多くお見えになります。能楽は長い作品だと上演時間が数時間に及ぶこともありますから、今回の改修によって座り心地の良さと座席周りにゆとりを確保できたことは何よりです。改修から1年、観劇を終えた常連のお客さまからは「楽に座れるようになった」、「足元が広くなった」というお褒めの言葉を多くいただいています。また、座席カラーも今までの濃いグリーンから、ベージュ系のカラーに床のカーペットも含めて一新しました。これにより新しく取り付けたLED照明にも映え、落ち着きのある上質な雰囲気を演出してくれます。さらに、座席のべース素材がスチールから見た目が柔らかい印象の「木」に変わり、乱反射しがちだった音響も木の吸音効果で良くなったと、演者である能楽師の皆さんから好評をいただいています。能楽堂は中央に正方形の「本舞台」とそこから突き出た「橋掛かり」という廊下があり、それらが客席に相当する「見所(けんじょ)」と一体化した独特の構造をしています。能楽師は目に見えない世界から橋掛かりを通って現実世界である本舞台に姿を見せ、怨念や悔恨を語って舞います。多くの作品で描かれる人間の情念は、舞台と一体化した空気を通して観客に伝わり、心を揺さぶるのです。小説や映画には「ファンタジー」という幻想的な世界観を描いたジャンルがありますが、目に見えない世界と見える世界、そのどちらでもない「あわい」の世界を行き来する能楽には、ファンタジーと通じるものがあります。能舞台という特異な空間だからこそ表現できる世界観を、快適になった座席で心ゆくまで鑑賞いただきたいものです。鏡の間揚幕切戸口見所橋掛かり鏡板後座本舞台三ノ松二ノ松一ノ松地謡座03

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