SCENE91
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毎年開催している「面白能楽館」は、一般の人が能楽の魅力を体感できる催しとして人気を博している。[左]装束体験 [中]所作体験 [右]能面体験伝統文化の品格を保ちながら、心理的な敷居は低く。[左]改修後 [上]改修前約650年の歴史がある「能楽」は、現代の人にとって敷居が高く感じられがちです。能楽の担い手である私たちは、伝統文化の重厚な品格を損なうことなく、敷居を低くして誰でも鑑賞できるようにし、こんなに素晴らしい伝統文化があるということを幅広い世代の皆さまに知っていただきたいと思います。そのための活動の一つとしてこの10年間取り組んできたのが、大人から子どもまで気軽に能楽に触れることができる「面白(おもしろ)能楽館」です。京都観世会の能楽師が企画運営し、年に1度開催しているもので、初心者の方に作品を鑑賞していただくだけでなく、能面や能装束を試着したり、謡(うたい)や能の基本動作を実際に体験できるコーナーを設けるなど、多彩なメニューを通して能楽を体感していただくことができます。今年は誰もが知っている日本の昔話「桃太郎」の一部を能で演じてみることで、能の構造をわかりやすく知っていただくという試みをしています。実は「鬼退治」は能の有名な演目「大江山」のテーマであることから、桃太郎の能楽版に触れた後、本格的な能「大江山」を鑑賞していただきます。このように入り口の敷居を低くすることで、能の描く世界の奥深さや面白さに触れ、やがて定期的に能楽公演を鑑賞していただけるようになればと思います。特に先入観のない子どもたちは、能楽体験を心から楽しんでくれます。今は意味がわからなくても、大人になって能を鑑賞してみようと思ってもらえたらうれしいですね。また、近年は日本の伝統文化への興味から海外のお客さまも来場されるようになり、熱心な方から質問を受けることもあります。館内でタブレットを片手に意味を調べるお客さまの姿も見受けられるようになりました。今後はITの浸透に対応し、上演される作品の解説をタブレットで見ることができるようにしたり、通訳サービスなどを提供することで、難解さの要因である言語のハードルを低くしていきたいと思います。京都は世阿弥以来の“能楽の聖地”であり、京都の中でもこの「岡崎」のエリアは、劇場や美術館が集積する京都の文化交流ゾーンです。この地から日本へ、世界へ能楽を発信するとともに、未来へと継承することは私たちの使命であると信じています。その思いを忘れず今後も邁進してまいります。京都観世会館所在地:京都府施主:公益社団法人京都観世会設計・監理:デザイン・アート株式会社04

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