SCENE99
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カーリングにおいて、コミュニケーションと並んで重要なもう一つの要素は、様々なリスクマネジメントの考え方です。目標を達成する(勝つ)ために、カーリングではチームでどのような方針を掲げ、ゲーム全体を構成するか、というプランを立てることが重要です。特に、チームの作戦とスキルに対するマネジメントは、パフォーマンスに大きな影響を与えます。カーリングの試合には、野球と同じように区切り(エンド)があります。野球は、1回表と裏、攻撃と守備の時間が切り分けられていますが、カーリングでは、1エンドの中で両チームが交互に8個のストーンを投げ合い、最終的にハウス中央に近いストーンを持っているチームに得点が入るため、ラストロックを持つ後攻チームが有利な状況であることが基本です。得点したチームは次のエンドでは先攻になり、これを10エンド繰り返した結果によって勝敗を決定します。作戦におけるセオリーとして、先攻はハウスを狭く、後攻はハウスを広く使います。不利な先攻は、相手が最終的に中央に投基本的に、先攻はハウスを狭く、後攻はハウスを広く使うような作戦を取るが、スタイルや考え方はチームによって個性がある。ダークは、7エンドをブランク、8エンドで後攻を取り、9エンドでライトに1点取らせることで、リスクマネジメントが成功している。げ入れにくい状況を作りながら、次のエンドで有利な後攻を取るために「1点取らせる」作戦をとります。もしくは、相手のミスが誘えれば、先攻でも積極的に得点を狙います(スチール)。一方で有利な後攻は、ガードストーンを利用するなどして1点を確保しながら、ラストロックで2点目を獲得できるようにゲームを組みたてます。ただし、2点取ることが難しい場合には、わざと点を取らずにエンドを終え(ブランク)、次のエンドに後攻を持ち越すことも考えます。どのエンドで後攻をとるのか、先攻で凌ぐのかを駆け引きしながらゲームは進められ、9エンド目を終えた時点で同点/後攻が取れていれば、ラストショットの1点で勝てる可能性が高い、ということになります。心理的には、より多く点差をつけたいという気持ちが働き、ついつい点を取りに行きたくなるものですが、欲張った作戦を選んだ結果、それを逆手に取られて利用され点を失う、というのはよくあるパターンです。例えば、自分のストーンがハウスに多く留まっていると点を取りやすく感じますが、配置によっては隙間に相手にストーンをねじ込まれ、自らのストーンが邪魔をしてそれを取り除くことが難しい状況になりがちです。そのため、常にリスク回避を念頭におき、攻めと守りの両方を意識しながら、ストーンの位置や数をコントロールします。(ちなみに、1エンドに3点以上入ると、ビッグエンドと呼ばれます)デザイン教育の目指すもの私たちを取り巻く社会は、技術の進歩とともに目まぐるしい変化を遂げています。それとともに、「デザイン」という言葉が示す内容も多様化し、様々なジャンルで「デザイン」という言葉が使われるようになりました。前回は、カーリングに携わっている視点から、これから時代の主流となる「チームデザイン」について考えました。今回は、カーリングに見る「リスクマネジメント」をヒントに、新しいデザインのあり方について紐解いてみたいと思います。ゲームにおけるリスクマネジメント「負けない」ための駆け引き09

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