SCENE99
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従来のスタイルは固定的で、フォローする範囲が限られるが、新しいスタイルでは隙間が補完されることで柔軟に対応でき、より幅広くフォローできる。さて、実際のゲーム中は、セオリーに囚われない各チーム独自の判断が求められます。そもそもプレイヤーには個人差があり、ショットの種類に対する得手不得手やメンタルの強さなどが影響し、ショット率は上下します。理想的な作戦を選んだとして、自チームのスキルも合わせて総合的に判断した場合、成功率はどのくらいか? ミスが出るとすれば、状況はどうなって、それはどのくらいのリスクなのか? などを、限られた時間の中で考えなくてはなりません。もちろん、チャレンジが必要な場面もありますが、その1場面だけでなく最終的に「負けない」ために、自分たちがすべきことを冷静に見極め判断し、最適な作戦を選ぶ必要があります。また、従来はスキップがフォースを務めるチームがほとんどでしたが、ポジションと投げ順を分けることでリスクを分散し、作戦を考える/ラストショットを投げる、というそれぞれの役割に集中することによって、経験値不足やメンタル面のリスクを回避するチームも増えています。さらに最近は、大会が始まる前にストーンの情報を入手し、ゲームでどのストーンを使うか把握した上で、エラーを回避するための作戦も立てられています(生産された全ての石の情報はデータベース化され、どの国のどこでそれが使われているか、世界レベルで情報共有されています)。このように、新たなスタイルによってリスクマネジメントを行い、確実により良い結果を出す、というチームの取り組みは、これからの主流となるチームデザインそのものだと言えます。もちろんこれまでもチームによるデザイン作業は行われてきましたが、ベテランと若手の「リレーション」によるグループワークが主流でした。新たなチームデザインは、経験値よりもメンバーの特性によって役割分担分業し、その都度コミュニケーションすることで不足している箇所を補完しながら再編集し、集約していきます。この手法は、メンバーの能力が各所に効率よく生かされるだけでなく、複合的で新しいデザインが生まれる可能性が高いのです。その結果、より理想的な成果物を生み出すことができると考えられます。私がこの世界に足を踏み入れた頃、デザインと言えば、「ファッション」や「ポスター」など、固定された造形を指すものばかりでした。そこから三十余年を過ぎ、今やデザインは、より柔軟でフレキシブルなものとなり、既に領域としての呼称にも意味が無くなってきています。これからデザイナーとして大切になるのは、スキルを上げることもさることながら、今求められるものに対して何が必要なのか、何をやるべきかを判断し、既存のカテゴリや概念を超えてすばやく行動できることです。それを実現するために、新世代のデザイナーは常に周りを観察し、柔軟に考え、周囲の人を取り込みながら、チーム力で問題解決に挑んでもらいたいと思います。そしてその動きを後押しするために、社会としては古い規制や概念が邪魔をしないような、柔軟な環境を提供していくべきでしょう。デザインは常に、人々の生活のためにあります。デザイン思考が様々な分野で活かされ、人々が生きやすい社会が育まれていくことを期待しています。愛知県立芸術大学 准教授森 真弓 氏Mayumi Mori1996年、東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了、博士号取得(美術)。ヒト、モノ、場所、時間などの間に存在する「接点」を表出させることをテーマに研究を行う。光、音、映像によるインスタレーション、各種インターフェースデザイン、コミュニケーションデザイン、イベントプランニング、デザインマネージメントなどを得意とする。また、日本スポーツ協会に所属し、日本カーリング協会公認カーリング上級指導員としての活動も行う。チームスキルの分析と対応方法チームデザインのこれから10

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