SCENE99
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株式会社三菱地所設計建築設計三部チーフアーキテクト須部 恭浩 氏Sube Yasuhiro株式会社三菱地所設計プロジェクト担当三上 哲哉 氏Mikami Tetsuya左から須部氏、三上氏。「賑わい」を創出する、次世代の学び空間「大学に『賑わい』が感じられない」。そんな川原理事長の言葉を受け、「学生が主役となり、学びの賑わいが感じられる空間」が、設計のテーマとなりました。そのとき浮かんだのが、 自室がなくリビングで勉強していた子どもの頃のイメージです。 敷地の周囲には古墳群があり、竪穴式住居で火を囲んで家族や仲間が集まるイメージも重なりました。学びの場に大きな「リビング」を作れば、愛着をもって人が集まり、賑わいが生まれるのではないか。複数棟ではなく「1棟建築」にした最大の理由です。逆三角錐という形状は、実は残業のときに食べた「おむすび」がきっかけです。実際に検証したところ、「賑わい」を集約するのに適した合理的な構造であることがわかりました。こうしてできたのが、1階の大きな「リビング(WILホール)」です。頭上には銀色に浮遊する図書館を設置。いわば東大寺の盧遮那仏像のような知の象徴であり、あえて窓を設けないことで館内を「胎内めぐり」する遊び心も加えました。学びの場に行かなくても知識が得られるネット時代に、賑わいを創出する「リビング」と非日常的な「知の殿堂」が、学生を誘引してくれると考えたのです。図書館の周囲の廊下は単に通路とせず、壁面に書架を設置した「知の回廊」と位置付けました。古本屋街をめぐるような知的探求を楽しむとともに、要所にコンセント付のカウンター席を設置。本を読んだり、パソコンを使った自習、仲間とのコミュニケーションの場として活用できます。1階のリビング縁部にも階段を設けていますが、全館の随所に建築と一体化した「溜まり場」を設け、天井高を住宅の基準に近づけることで、リラックスできる空間にしています。設置した家具も流行に左右されないモノトーンを基調とし、主役である学生のファッションが賑わいに彩りを添えます。新校舎が供用されて以来、「リビング」には学生が常に集い、設計の意図した学びの「賑わい」が生まれていると実感しています。追手門学院様は今回の130周年事業を、「未来の教育」を見据えたものと位置付けておられますが、この新しい校舎が学びの賑わい絶えない空間となって、未来につながっていくことを願っています。[左]2階 ディスカバリープロムナード/2階から4階まで歩けば1kmに及ぶ書籍の回遊路は、「知の回廊」として好奇心を刺激する。本を読むカウンターやコンセントも設置。書架:造作家具(背面鏡工事) [右]1階 OG CAFE/書架:造作家具、展示台:特注品04

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