SCENE別冊「コモンスペース特集」
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 移転は、旧校舎の老朽化への対応に併せ、コスモ校にとって最適な環境づくりをするために行われました。高卒認定を目指す生徒も受け入れるコスモ校は、授業に対する考え方や方法が一般予備校と異なっています。スクール形式の授業を行う「教科別講座」の他に、取り組みたいテーマについて講師と対話しながら進める「テーマ別講座」なども行い、個々人の生活スタイルや時間に合わせたサポートメニューを用意しています。  “ケータイ世代”と呼ばれる若者たちは、勉強をする場や時間を選びません。勉強というオンモードだけでなく、私的なオフモードや中間の半オフモードをうまく使って生活しています。こういった特性を受け入れないと、塾生にとって居心地のよい空間づくりは難しいと思います。 さまざまな与件を考慮した結果、6階建て新校舎の3階までを、若者たちが自由に過ごし学ぶ共有空間に、4階以上は一般的な教室空間としました。中でも2階は、コスモ校が目指す環境づくりを試す半オフモードの場とし、3階は4階以上の教室群へつなぐ中間的な場と位置づけています。 2階には、「コスモ自由広場」「アトリエ」「サウンドスタジオ」と「キッチン」があり、サウンドスタジオ以外はオープンなスペースとしています。中心となる「コスモ自由広場」は、読書や休憩などに向いた自由なくつろぎ空間です。本棚には、さまざまな本や雑誌、写真集などが置かれ、塾生は本だけ読んで帰ってもいいのです。 私たちは、人が集まる場をつくる際には、“一人でも複数でも居心地がいいこと”を大切にしています。居心地のよさは人によって異なりますから、いろいろな場を用意することが必要です。こういった考えから、家具について当初は、素材・デザイン・色など多様なタイプの取り合わせを想定しました。しかし最終的には、人や本などが加わることを考慮して絞り込みました。また、自由に場づくりができるようにすべての家具を可動としましたが、本棚や大テーブルなど重くて動かしにくい家具で基準となる“へそ”をつくり、利用者にとって場の整理をしやすくしています。私たちは、空間計画において“つくり込みすぎない”ことに注意を払いました。こちらが意図を出しすぎると、若い人たちに見透かされますし計画通りには使ってくれません。 3階の中心は「アカデミックルーム」で、双方向コミュニケーション型の授業ができます。可動家具をスタッキングし片付けてカーペットフロアに畳を敷けば、車座になりくつろいでゼミが行えます。ここは、塾生が4階以上の教室へ向かう前に、自分の心身を整える場でもあります。 くつろげる空間づくりをという方針は、1階にある入校申込受付にも反映され、ホテルで使われる「コンシェルジュカウンター」の考え方を参考にしました。入校希望者にいきなり正面で対するのではなく、90度入りというワンクッション置いた形で迎えます。受付業務もカウンターではなくラウンジコーナーで行えるような空間づくりをしています。 インターネットを使って何でも学習できる時代です。しかし、“ひとつ屋根の下でひざを交えて語り合う”という人間的な行為は、教育機関が共有空間をつくるうえでとても大切なことだと思います。今回のコスモ校の試みがよい結果を出してコモンスペースの未来形へつながることを期待しています。若者の生活スタイルに合わせた、半オフモードの空間計画自由にくつろげるように、さまざまな場と家具を用意人間的な配慮が、新たな共有空間づくりのポイント株式会社 松田平田設計 執行役員総合設計室 建築設計部門代表渡邉 一隆 氏Kazutaka Watanabe総合設計室 第一建築設計部主管藤井 久生 氏Hisao Fujii総合設計室 インテリア設計部古澤 美登里 氏Midori Furusawa2・3階が共有空間で、2階は自由なくつろぎの場、3階は4階以上の教室群へつなぐ中間的な場としている。1階2階3階4階5階6階21 COMMON SPACE

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