SCENE98
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突然ですが、私はカーリングをしています。カーリングはスポーツでありながら、自分の仕事と似ている面が非常に多いと感じています。カーリングは「氷上のチェス」とも呼ばれています。カーリング女子日本代表の銅メダル獲得を機に、メディアでも多く取り上げられ、皆さんに知られるようになりました。囲碁や将棋とも似ており、手の内が常に公開された状態で、2チームそれぞれ4人のプレイヤーによって試合が進められます。どこがスポーツに値するのか?という声もいまだに聞かれますが、見かけ以上にハードな側面を持っています。誰にもわかりやすい競技性や、年齢や性別などによる差が出にくいことなど、競技を理解するにも始めるにもハードルの低いスポーツであると言えます。そして、数ある競技の中でも、試合中にここまで頭を使い続ける競技は他にないでしょう。スポーツ競技を突き詰めていくためには、体とメンタルを鍛えよりよい結果を出す、というのが通常の考え方です。もちろんカーリングも、競技者として高いパフォーマンス力を身につける必要がありますが、それと同等かそれ以上に重要なのは、高いチーム力だと考えられています。団体競技で代表チームを編成する場合、全国のプレイヤーから監督が選抜メンバーを招集すカーリングのポジションと役割分担ることが多い中で、カーリングでは、代表選考会で勝ち上がったチームがそのまま代表チームとなります。その理由は、繊細で深いコミュニケーションによる情報共有の必要性があるからです。そんなカーリングは、この十数年間で、競技のスタイル、特にチームのあり方が大きく変化しています。チームを編成するメンバーはリザーブを含めた5人のみで、ポジションも含めほぼ固定しています。もともとは、スキップ(司令塔)が考えた作戦を、その他のメンバーが指示通りに遂行することが重要視されていました。スキップの判断は絶対的なものであり、チーム名にスキップの名前が掲げられるところは、この競技の特性をよく表しています。しかし最近、競技としての研究が進み、アイスコンディションや石の状態などプレーに影響のある要素に対して、より多くの情報を掌握しているチームが台頭してきました。現在では、スキップの立てた方針に沿って、それぞれのポジションから気づく多角的な情報を交換し、常にチームで問題点などを共有しながら試合を進めます。1プレーごとに全員で答えを導き出し、積み重ねていきます。この共有すべき情報の種類が多岐にわたるのが、カーリングの独特な世界です。デザイン教育の目指すもの私たちを取り巻く社会は、技術の進歩とともに目まぐるしい変化を遂げています。それとともに、「デザイン」という言葉が示す内容も多様化し、様々なジャンルで「デザイン」という言葉が使われるようになりました。その中で、芸術大学のデザイン教育は、これまでの感覚的な専門技能を伸ばす時代から、変化に柔軟に対応できる人材育成が求められています。今回は、コミュニケーションというキーワードを軸に、これからの若きデザイナーがどうしていくべきか、考えてみたいと思います。カーリングという競技チームとしての考え方の変化11

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