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COLUMN コラム

2021.03.05

空間リノベーションという可能性
ー 後編 ー(全2回)
インテリアデザイナー
イガラシデザインスタジオ代表/武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科教授

五十嵐 久枝 氏

リノベーションとは、その場所に新しい価値を与えることです。時間の経過とともに役目を終え、新たな役割へとアップデートしてゆく。それは、乾いた土に水を与えることにも近く、生き生きし続けることは、手を掛けてゆくことでもあります。すでにあるものを利用し、活かし、新たな価値に変えてゆくリノベーションの可能性に期待したいと思います。さて、今回は最近のリノベーションの実例をご紹介します。

前編の記事はこちらからご覧いただけます。

「石ころ」のようなベンチ

次いでベンチのデザインですが、学生がどのように使うのかを想像しながら模索しました。1961年に開設された武蔵野美術大学鷹の台キャンパスは、美観へのこだわりが一貫しており、屋外にはベンチやテーブルは設置されず、学生は広い階段や低い塀に自由に座り、芝生の上でくつろいでいるのが日常の風景です。そのため「ゼロスペース」のベンチも人の動きや流れに寄り添い、様々な関係に対応できる緩やかな形をイメージしました。
そこで川の流れと石のイメージから、以前河原で拾った小石の形状をトレースしたものを含め、座って一休みするものから上で寝転がることができるものまで、石ころを模した大小様々なベンチをデザインしました。これらをスペースの中央に置くことで、多様な領域をつくることを意図したわけですが、実際、学生個々にベンチを動かしそれを実践しています。また、以前、通路となっていた中央部をくつろぎの場とするには、ベンチを置くだけでなく領域をつくる必要があると考えましたが、それはパーティションのような物理的な仕切りではなく、エリアを感じ取ることがこの場にはふさわしいと考えました。
そこで天井にエリアを示すゼロ型の白いサークルを吊り下げ、サークル内に石ころを集めることで、中央が休憩エリアであることを理解できるようにしました。白いサークルが空間に明快な中心性を生み出し、自然と人と引き込むのかもしれません。
さらに、心地よい空間をつくるため、自然光が時間によって射し込む光の量や強さを変化させるように、人工光がゆっくりと4つのシーンに切り変わるよう照明をプログラムしました。これにより午前中は気持ちのよい自然光が充分に射し込み、夕方からは静かな光に、一日の終わりはベンチのある中央をやや華やかに、そして静かに活動を終息へ導くような照明を演出しています。

建築や空間に新しい可能性を

「ゼロスペース」は、従来、異なる用途に使われていた空間を、その場所のポテンシャルを読み込んで新たに置き換えた事例となりました。この空間で周囲の教室や行き交う学生との関係性ができ、「新しい役割」を与えることになりました。
どのような建築にも潜在的な価値があり、それが経年変化により機能しない、利用されないケースはあると思います。私たちが立ち止まって考えることで、そのような建築や空間に新しい可能性や魅力を見つけ、生きた空間へと変化させることができるのではないでしょうか。
リノベーションは周囲との関係性や、手に入る素材、工法などが空間の着地点へと導いてくれることがあります。空間がヒントをくれるのです。空間づくりの過程にある出会いのようなプロセスに、デザインすることの面白さも感じることができます。

インテリアデザイナー
イガラシデザインスタジオ代表
武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科教授
五十嵐 久枝
Igarashi Hisae

桑沢デザイン研究所インテリア・住宅研究科卒業。1986~91年クラマタデザイン事務所勤務。93年イガラシデザインスタジオ設立。幅広い領域で空間デザイン・インスタレーション・家具デザインに携わる。主な仕事に、TSUMORI CHISATO、武蔵野美術大学「ゼロスペース」、PEACH JOHN東京オフィスのインテリアデザイン、TANGO、baguette life、AWASE、AS YOU AREの家具デザインがある。