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COLUMN コラム

2020.10.05

行動分析から建築をデザインする
ー 前編[1] ー(全4回)
名古屋大学工学研究科 准教授 太幡 英亮 氏

人々の「行動」に興味を持ったことはありませんか?
空間のデザインにはとても多くの可能性があるはずなのに、現実の社会、都市ではごく限られたパターンしか用いられていないと感じます。ハコモノと呼ばれる施設や、一見格好良い意匠をまとった建築もそうです。まだ見ぬ可能性を開く方法として私が取り組んでいるのが、建築や都市の中にある人々の「行動」に立ち返り、観察し、何かを発見しようとするスタンス。行動分析による空間デザインです。

多世代交流施設 豊坂ほっと館の設計

「豊坂ほっと館」があるのは、愛知県中部に位置する人口4万人の町、幸田町の西の高台、旧集落地域と新興住宅地域をつなぐ旧道に面した場所です。大企業の工場誘致で税収も安定し、人口が増加している幸田町では、人口増を支える若い新住民が子育てしやすい環境をつくることが課題であり、一方で高齢化する古くからの住民との交流も大切です。その双方をかなえる場として誕生したのが「多世代交流施設」としてのほっと館でした。その主な機能は「児童館」です。
多くの方が「児童館」での子どもの行動について、実体験に基づき「イメージ」できるでしょう。しかし「1日に1m2あたり何人の子どもが遊ぶのか」「子どもは何人組で遊ぶことが多いのか」となると、「正確に」答えられる人はいません。それは調査に基づく科学的なアプローチにおいて初めて明らかになるものだからです。ところが、これらは児童館を設計するうえで極めて重要な情報であり、子どもの行動を「明確に」把握することは、建築をデザインするうえでの確信を与える、いわば「建築の力」となるものであると考えます。

他の児童館での行動分析

そこで、まず愛知県内で調査が可能であった全ての小型児童館で、利用者数と幼児・小学生・高齢者などの利用者属性、建築の広さや部屋の構成、駐車台数などを、網羅的かつ統計的に調査しました。調査結果は自治体ごとに多種多様でしたが、「m2あたりの年間利用者数(平均37人/m2)」や「利用頻度の多い利用者属性」、それらの関係性などがわかり、その違いによって8つのタイプに分けることができました。
次いで、その8タイプを代表する8事例を抽出し、実際に現地で観察調査を実施しました。調査では、複数人の学生調査員が、5分おきに館内に定めた多数の場所から定点観察を行い、「いつ、どこで、どういった人が、何人で、何をやっているか」を明らかにしていきました。この調査を通じて、児童館では「(親や厚生員による)見守り」「活動の多様性」「小さな活動単位(人数・広さ)」「短時間での場所・遊びの変更」という側面が、他の子ども施設と異なる大きな特徴であることが分かり、それぞれ[図1]のような定量的な結果が得られました。
【前編[2]につづく】

名古屋大学工学研究科 准教授
環境学研究科都市環境学専攻協力教員 博士(工学)、一級建築士

太幡 英亮
Eisuke Tabata

1999年 東京電機大学工学部建築学科卒業、2004年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了。渡辺誠/アーキテクツオフィスを経て、2009年より名古屋大学工学研究科助教、2015年より同准教授。名古屋大学のキャンパスデザインを継続的に担う。日本建築学会賞、インフラメンテナンス大賞文部科学大臣賞、中部建築賞など多数受賞。