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COLUMN コラム

2020.10.05

行動分析から建築をデザインする
ー 前編[2] ー(全4回)
名古屋大学工学研究科 准教授 太幡 英亮 氏

人々の「行動」に興味を持ったことはありませんか?
空間のデザインにはとても多くの可能性があるはずなのに、現実の社会、都市ではごく限られたパターンしか用いられていないと感じます。ハコモノと呼ばれる施設や、一見格好良い意匠をまとった建築もそうです。まだ見ぬ可能性を開く方法として私が取り組んでいるのが、建築や都市の中にある人々の「行動」に立ち返り、観察し、何かを発見しようとするスタンス。行動分析による空間デザインです。

前編[1]の記事はこちらからご覧いただけます。

行動分析からのデザイン

以上の分析結果は、実際に複数の児童館を観察した印象、ヒアリング結果、利用者として自ら児童館で過ごした体験とともに、建築をデザインする上での大きな手がかりを与えてくれました。
見守り:幼児と母親の利用が多い児童館という建築の大きな特徴で、親が少し離れて子どもの様子を見つつ、子どもが自由に遊ぶという行動はよく見られます。つまり児童館は「子ども」だけでなく、「子どもとその親」のための施設であり、親が読書や時には仕事をしつつ、互いに認知し合い、子どもを遊ばせることができる空間デザインが求められます。そこでほっと館では、全ての遊び場に見守りの場を併設しました。特に遊戯室と中庭に挟まれたガラス張りのデン(幼児室)からは、乳幼児の相手をしながら、ガラス越しに年上の子の様子を見守ることができ、中2階の子育てワークプレイスは、多くの遊び場の中継地かつ見張台として、親が自分の活動に集中できます。親の居場所を意識したデザインは、ほっと館の大きな特徴です。

小さな活動単位:保育園や小学校の空間デザインでは、活動の基本単位が大きい(学級単位)ことが大きな決定要因になります。しかし、児童館での活動は1人または2、3人での「自由遊び/学び」がほとんどです。これは、仮に保育園同様の面積でも、「行動」は本質的に異なっていることを意味します。ほっと館は550m2の広さがありますが、小さな活動向けの居場所をたくさん作ることが重要と考えました。これは調査結果からも明らかですが、200m2の正方形の部屋で、100m2の正方形の部屋の2倍の活動を内包することはできません。面積は2倍でも外周壁の長さは√2倍であることが大きな要因です。静的な遊び場は壁際に多くなるため、ほっと館の集会室の形状には凸型を用いています。
短時間での場所・遊びの変更:スポーツなどの動的活動は遊び継続時間や滞在時間が長くなる傾向がありますが、その他の活動では、遊び継続時間は5分以下、部屋滞在時間も10分以下が最多数です。つまり、小さな活動単位が頻繁に遊びや場所を変えて移動するのが、児童館の主たる行動形式といえます。そこでほっと館では、静的遊びの拠点となる集会室を中心に、流動的に子どもたちが移動できる空間構成をとっています。
ほかにも、多くのことが行動分析を通じて明らかにされました。これら行動の課題に加え、日射、通風、景観などの課題を同時に解決する形として、[図1]に示すWALLとSHEDによる建築デザインが創られました。
後編では(分析→デザイン)の流れとは逆に、新たに作られた空間のもつ性質を行動分析から検証した事例(デザイン→検証)をご紹介する予定です。
【後編につづく】

名古屋大学工学研究科 准教授
環境学研究科都市環境学専攻協力教員 博士(工学)、一級建築士

太幡 英亮
Eisuke Tabata

1999年 東京電機大学工学部建築学科卒業、2004年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了。渡辺誠/アーキテクツオフィスを経て、2009年より名古屋大学工学研究科助教、2015年より同准教授。名古屋大学のキャンパスデザインを継続的に担う。日本建築学会賞、インフラメンテナンス大賞文部科学大臣賞、中部建築賞など多数受賞。