axona AICHI 愛知株式会社

ALL

COLUMN コラム

2020.11.20

行動分析から建築をデザインする
ー 後編[2] ー(全4回)
名古屋大学工学研究科 准教授 太幡 英亮 氏

家具や建築は私たちの行動の器ですので、それを使う人々の「行動」に焦点を当てると、そのデザインの持つ意味について様々な発見があります。前編では、既存建築での行動観察を通じた分析を新たな建築のデザインに活かした事例(分析→デザイン)をご紹介しました。後編では逆に、新たにデザインした空間のもつ性質を行動分析から検証した事例(デザイン→検証)を、自身がその双方に関わった建築をもとにご紹介します。

後編[1]の記事はこちらから、ご覧いただけます。

NIC(2015竣工)

名古屋大学における産学官連連携拠点として、多くの企業と大学の研究室、産学連携の事務室や会議室、小規模な沢山の会議室(スタジオ)と自動車関連の大きな実験室を備えています。
この組織には、ワーク&ライフスタイルのイノベーションという目的もあり、家族連れで利用できるコワーキングスペース「多世代共用スペース」を設置しました。親と子が活動を両立させるためには、部屋をいくつかに仕切る必要があることは事前の調査で分かっていました。そこで、100m2の部屋に地域産木材で間仕切りを設け、そこに幾つかの小さな開口とテーブルを造り付けました[写真5]。行動観察を通じて、子どもが遊びや宿題に集中し、同時に親は仕事に集中できている状況を確認すると、やはりこの「隔てつつ繋げる」間仕切りが重要な役割を担っている事が分かりました。音や視線を調整する幾つかの実験を通じて、親子が適度に干渉(インヴォルヴ)しあっている状況が、お互いの活動の集中と継続に繋がっている事が予想できました。

また、NICのコモンスペースは非常に特徴的な形と豊かな広さを持っています。これは、産学官連携という研究を通じた多様な連携の創出が組織の重要なコンセプトとなっているためです。建物中央の三角形の広いコモンスペースには、ガラス張りの小さなスタジオやキッチンや開放的なラウンジが散りばめられています。
行動観察を行った当初1-2年ほどは、このコモンスペースが十分に使われていませんでした。しかし最近では、このスペースは名古屋大学内で最も賑わいのある場所の一つになりました。NIC内外・大学内外の人、沢山の学生教職員が行き交い、ある人は一人で勉強し、ある人はラウンジで会話や食事をし、その中のスタジオでは頻繁に会議が行われています[写真6]。とあるワークショップの風景[写真7]をご覧頂くと、この場の興奮が伝わるのではないでしょうか。スタジオはガラス張りで壁は全面ホワイトボード、スタジオの先には廊下、その先にさらにスタジオと何層にも活動が透過して見えてきます。偶然この状況を目にした、多様な来訪者や学生に、開かれた知の拠点としての興奮とインスピレーションを与えてくれるように感じます。
これらは、たまたま生じた行動ではなく、その空間の配置や広さ、仕上げや境界のデザインが可能にした行動であり、同時に、想定外の行動による新たな「デザインの持つ可能性」の発見があります。それが行動分析の醍醐味だと思っています。

名古屋大学工学研究科 准教授
環境学研究科都市環境学専攻協力教員 博士(工学)、一級建築士

太幡 英亮
Eisuke Tabata

1999年 東京電機大学工学部建築学科卒業、2004年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了。渡辺誠/アーキテクツオフィスを経て、2009年より名古屋大学工学研究科助教、2015年より同准教授。名古屋大学のキャンパスデザインを継続的に担う。日本建築学会賞、インフラメンテナンス大賞文部科学大臣賞、中部建築賞など多数受賞。