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COLUMN コラム

2020.11.06

行動分析から建築をデザインする
ー 後編[1] ー(全4回)
名古屋大学工学研究科 准教授 太幡 英亮 氏

家具や建築は私たちの行動の器ですので、それを使う人々の「行動」に焦点を当てると、そのデザインの持つ意味について様々な発見があります。前編では、既存建築での行動観察を通じた分析を新たな建築のデザインに活かした事例(分析→デザイン)をご紹介しました。後編では逆に、新たにデザインした空間のもつ性質を行動分析から検証した事例(デザイン→検証)を、自身がその双方に関わった建築をもとにご紹介します。

前編[2]の記事はこちらから、ご覧いただけます。

ES総合館(2011竣工)

ホールや展示室、講義室や事務室、研究室や実験室といった複合用途の大学施設で、かつ理学と工学が同居する名古屋大学ではじめての研究棟でした。ノーベル賞学者が研究する素粒子物理学の研究フロアでは、共用空間での研究交流を重視して、廊下は3mの幅をもたせ、その教員室側の壁面にホワイトボード、院生室側はガラスパーテーションとしました。
数日間の行動観察により、通常は2m程度の廊下を3mにすることで、家具が置け、通行人を気にせずに複数人の会話が実際に成立する事が分かり、ホワイトボード壁には沢山の数式が書き込まれていきました[写真1]。また、廊下の角にあるコロキウム室(ゼミ室)では、部屋の対角線上に2つの扉を持つことで、エレベーターやトイレに行く際の通り抜け動線となり、かつ室内にキッチンを持つ事で、通り抜ける人と洗い物や休憩をする人が出会い、偶発的な会話を生み出す事がわかりました。
さらに、建築学系の製図室が入るフロアでは、製図室との一体的な使用を見据えて、廊下に開放された講評室がつくられました。実際には、講評会以外の通常時には講義にもよく使われ、通過する学部生が大学院生の講義を垣間見るという、普通は生じ得ない行動が生まれています。これらは、見る・見られるといったインフォーマルなコミュニケーションによる学習意欲の刺激を生み出していると思われます[写真2]。

研究所共同館Ⅰ(2013竣工)・Ⅱ(2017竣工)

太陽・地球・水循環といった理系の研究所が集約し、事務部門や講義室も持つ研究棟で、2期に別れて竣工しました。どちらも中廊下型の標準的な平面計画としましたが、だからこそ共用空間のデザインを工夫しました。大学のように、研究室の独立性が高く、またそれが魅力でもある組織の場合は、限られた共用空間のデザインが特に重要になると考えているためです。給湯室や喫煙所などの要素が、人々を集める「マグネット」となる事は既に言われていました。そこで共同館Ⅰでは、給湯室・コピーコーナー・ガラス張り会議室・ラウンジ・トイレをEVホール周りに集約し、研究者同士が自然と顔を合わせる事を意図しました。給湯室のカウンターは、ラウンジを挟んでコピーコーナーと向かい合うデザインとなっています[写真3]。
行動観察を通じて、会議後の余韻で、会議室前のラウンジでよく会話が見られることが分かりました。これは、会議室とラウンジという空間の組み合わせが意外とよく機能するという発見でした。
共同館Ⅱでは、より限られた共用空間でありながらも、エレベーター、階段に隣接してオープンなキッチンカウンターとホワイトボードを組み合わせたラウンジをつくり、その先の奥まった場所に、眺望のよいミーティングスペースを連続させました[写真4]。この二段階の奥行きを持つ共用空間での行動観察は今後の課題となっています。
【後編[2]につづく】

名古屋大学工学研究科 准教授
環境学研究科都市環境学専攻協力教員 博士(工学)、一級建築士

太幡 英亮
Eisuke Tabata

1999年 東京電機大学工学部建築学科卒業、2004年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了。渡辺誠/アーキテクツオフィスを経て、2009年より名古屋大学工学研究科助教、2015年より同准教授。名古屋大学のキャンパスデザインを継続的に担う。日本建築学会賞、インフラメンテナンス大賞文部科学大臣賞、中部建築賞など多数受賞。