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COLUMN コラム

2021.01.15

デザイン教育の目指すもの
ー後編 ー(全2回)
愛知県立芸術大学 准教授 森 真弓 氏

私たちを取り巻く社会は、技術の進歩とともに目まぐるしい変化を遂げています。それとともに、「デザイン」という言葉が示す内容も多様化し、様々なジャンルで「デザイン」という言葉が使われるようになりました。前回は、カーリングに携わっている視点から、これから時代の主流となる「チームデザイン」について考えました。今回は、カーリングに見る「リスクマネジメント」をヒントに、新しいデザインのあり方について紐解いてみたいと思います。私たちを取り巻く社会は、技術の進歩とともに目まぐるしい変化を遂げています。それとともに、「デザイン」という言葉が示す内容も多様化し、様々なジャンルで「デザイン」という言葉が使われるようになりました。前回は、カーリングに携わっている視点から、これから時代の主流となる「チームデザイン」について考えました。今回は、カーリングに見る「リスクマネジメント」をヒントに、新しいデザインのあり方について紐解いてみたいと思います。

前編の記事はこちらから、ご覧いただけます。

ゲームにおけるリスクマネジメントゲームにおけるリスクマネジメント

カーリングにおいて、コミュニケーションと並んで重要なもう一つの要素は、様々なリスクマネジメントの考え方です。目標を達成する(勝つ)ために、カーリングではチームでどのような方針を掲げ、ゲーム全体を構成するか、というプランを立てることが重要です。特に、チームの作戦とスキルに対するマネジメントは、パフォーマンスに大きな影響を与えます。
カーリングの試合には、野球と同じように区切り(エンド)があります。野球は、1回表と裏、攻撃と守備の時間が切り分けられていますが、カーリングでは、1エンドの中で両チームが交互に8個のストーンを投げ合い、最終的にハウス中央に近いストーンを持っているチームに得点が入るため、ラストロックを持つ後攻チームが有利な状況であることが基本です。得点したチームは次のエンドでは先攻になり、これを10エンド繰り返した結果によって勝敗を決定します。

「負けない」ための駆け引き

作戦におけるセオリーとして、先攻はハウスを狭く、後攻はハウスを広く使います。不利な先攻は、相手が最終的に中央に投げ入れにくい状況を作りながら、次のエンドで有利な後攻を取るために「1点取らせる」作戦をとります。もしくは、相手のミスが誘えれば、先攻でも積極的に得点を狙います(スチール)。一方で有利な後攻は、ガードストーンを利用するなどして1点を確保しながら、ラストロックで2点目を獲得できるようにゲームを組みたてます。ただし、2点取ることが難しい場合には、わざと点を取らずにエンドを終え(ブランク)、次のエンドに後攻を持ち越すことも考えます。どのエンドで後攻をとるのか、先攻で凌ぐのかを駆け引きしながらゲームは進められ、9エンド目を終えた時点で同点/後攻が取れていれば、ラストショットの1点で勝てる可能性が高い、ということになります。
心理的には、より多く点差をつけたいという気持ちが働き、ついつい点を取りに行きたくなるものですが、欲張った作戦を選んだ結果、それを逆手に取られて利用され点を失う、というのはよくあるパターンです。例えば、自分のストーンがハウスに多く留まっていると点を取りやすく感じますが、配置によっては隙間に相手にストーンをねじ込まれ、自らのストーンが邪魔をしてそれを取り除くことが難しい状況になりがちです。そのため、常にリスク回避を念頭におき、攻めと守りの両方を意識しながら、ストーンの位置や数をコントロールします。(ちなみに、1エンドに3点以上入ると、ビッグエンドと呼ばれます)

チームスキルの分析と対応方法

さて、実際のゲーム中は、セオリーに囚われない各チーム独自の判断が求められます。そもそもプレイヤーには個人差があり、ショットの種類に対する得手不得手やメンタルの強さなどが影響し、ショット率は上下します。理想的な作戦を選んだとして、自チームのスキルも合わせて総合的に判断した場合、成功率はどのくらいか? ミスが出るとすれば、状況はどうなって、それはどのくらいのリスクなのか? などを、限られた時間の中で考えなくてはなりません。もちろん、チャレンジが必要な場面もありますが、その1場面だけでなく最終的に「負けない」ために、自分たちがすべきことを冷静に見極め判断し、最適な作戦を選ぶ必要があります。
また、従来はスキップがフォースを務めるチームがほとんどでしたが、ポジションと投げ順を分けることでリスクを分散し、作戦を考える/ラストショットを投げる、というそれぞれの役割に集中することによって、経験値不足やメンタル面のリスクを回避するチームも増えています。
さらに最近は、大会が始まる前にストーンの情報を入手し、ゲームでどのストーンを使うか把握した上で、エラーを回避するための作戦も立てられています(生産された全ての石の情報はデータベース化され、どの国のどこでそれが使われているか、世界レベルで情報共有されています)。このように、新たなスタイルによってリスクマネジメントを行い、確実により良い結果を出す、というチームの取り組みは、これからの主流となるチームデザインそのものだと言えます。

チームデザインのこれから

もちろんこれまでもチームによるデザイン作業は行われてきましたが、ベテランと若手の「リレーション」によるグループワークが主流でした。新たなチームデザインは、経験値よりもメンバーの特性によって役割分担分業し、その都度コミュニケーションすることで不足している箇所を補完しながら再編集し、集約していきます。この手法は、メンバーの能力が各所に効率よく生かされるだけでなく、複合的で新しいデザインが生まれる可能性が高いのです。その結果、より理想的な成果物を生み出すことができると考えられます。
私がこの世界に足を踏み入れた頃、デザインと言えば、「ファッション」や「ポスター」など、固定された造形を指すものばかりでした。そこから三十余年を過ぎ、今やデザインは、より柔軟でフレキシブルなものとなり、既に領域としての呼称にも意味が無くなってきています。これからデザイナーとして大切になるのは、スキルを上げることもさることながら、今求められるものに対して何が必要なのか、何をやるべきかを判断し、既存のカテゴリや概念を超えてすばやく行動できることです。それを実現するために、新世代のデザイナーは常に周りを観察し、柔軟に考え、周囲の人を取り込みながら、チーム力で問題解決に挑んでもらいたいと思います。そしてその動きを後押しするために、社会としては古い規制や概念が邪魔をしないような、柔軟な環境を提供していくべきでしょう。
デザインは常に、人々の生活のためにあります。デザイン思考が様々な分野で活かされ、人々が生きやすい社会が育まれていくことを期待しています。

愛知県立芸術大学 准教授
森 真弓
Mayumi Mori

1996年、東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了、博士号取得(美術)。ヒト、モノ、場所、時間などの間に存在する「接点」を表出させることをテーマに研究を行う。光、音、映像によるインスタレーション、各種インターフェースデザイン、コミュニケーションデザイン、イベントプランニング、デザインマネージメントなどを得意とする。また、日本スポーツ協会に所属し、日本カーリング協会公認カーリング上級指導員としての活動も行う。