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COLUMN コラム

2021.05.14

建築デザインと家具デザインの関係性
ー 前編 ー(全2回)
株式会社芦沢啓治建築設計事務所
代表取締役 一級建築士
芦沢 啓治 氏

建築家にとって家具のデザインとは何か、建築のデザインと家具のデザインとの関係、生活の視点で見た家具の設計について建築家であり、家具デザイナーとして幅広い分野で活躍する芦沢啓治氏に寄稿いただきました。

家具と建築について考える

戦前まで日本の家には殆ど家具がなかったと言われています。それが現在の日本の家具文化に対する貧困さだということを、生活史研究科の小泉和子さんは著書の中で書いています。椅子が家具の代表選手だとして、日本における生活様式が床座であったことを考えれば少なくとも椅子の出番はありません。
サザエさんでも使われているちゃぶ台にしても、多くの家庭が使うようになったのは昭和に入ってからのようです。もちろん、ちゃぶ台に椅子は必要ありません。そんな状況が影響してるのか、私が建築の勉強をしても、家具について学ぶ講座がないことはおろか、設計の課題において家具についての話が出てきたこともありませんでした。ゆえに私は、社会に出て住宅を設計するようになってはじめて家具について考える、そんな感じでした。
そして今から25年前の住宅専門誌を見ると、家具の扱いはまるでアクセサリーのようであったり、家具のない空間だけの写真の隣で、建築家はその空間について難解なテキストを書くといったものが多かった印象です。そんな私が家具に興味を持ったのは皮肉にもその住宅専門誌でした。ジャン・プルーヴェというフランスの建築家であり家具デザイナーでもあった元金属加工職人の話です。そこの誌面においても家具の写真があったかどうかは定かではないのですが、彼の作る建築や家具、物づくりそのものに興味を持つようになりました。それから住宅の設計を通して少しずつ学ぶことになりました。
同時にジャン・プルーヴェの影響を受けて、金物製作会社super robotに転職し2年ほど働くことになりました。そこでの経験はパワフルで、物をデザインすること、また作ることの楽しさや可能性を感じた日々でした。現在家具のデザインを職業とすることになったのも、あの時期に物づくりを経験させてもらったおかげだと断言できます。手で家具を作ってきたという経験は何物にも代え難いものです。

建築家がデザインする家具

モダンファニチャーのデザインの多くは建築家の手によるものです。著名な家具コレクターである織田憲嗣氏に名作家具についての話を聞いたときに、家具デザイナーによるものは殆どないと伺いました。家具デザイナーが登場するのは最近の話なのです。当時の建築家は家具を自らの建築と合わせてデザインしました。アルテック社から出ている有名なstool 60も、アルヴァ・アアルトが設計したヴィープリ図書館のために彼によってデザインされたものです。スワンチェアは、アルネ・ヤコブセンがSASロイヤルホテルのために作ったものです。
そうした事実を知る度に、私も建築と家具は繋がっているべきなのだと気付かされた1人です。そして家具がデザインできる建築家をめざしたいと強く思いました。前後編2回の寄稿において、私が関わったプロジェクトを通し家具と建築の関係性、私が気がついてきたことについて書きたいと思います。

家具なのか家なのか

私が独立後最初に設計した住宅は、土地が50m2、建築面積が30m2という小さな住宅でした。「11boxes」と呼んでいる家です。この設計を始めた当時、私は既に金物製作会社で働いていたことがあったため、家具のような住宅ができないかと思っていました。家具スケールの構造材を組み合わせていくことで、内部における家具と建築構造を一体とし、軽やかな空間を作り出すことが出来るのではないかと思ったのです。
メインの構造は75mmのLアングル。その材料を使ってコンテナのような箱を11個作り、まるでカラーボックスを重ねていくような形で積み上げています。階段やファサードのサッシも同じ材料で作っています。コストを絞り込むことと工期の短縮を狙い、ボックスは工場で精度良く作り、サッシや外壁の取り合いにおいて無駄な部材を付けなくてもいいようにしています。また箱の大きさは小さな土地に対して、効率よく機能が収められるように3種類のスパンを計画しました。2.2m、1.75m、そして2.55mです。出来上がった家は、テントのような軽やかさのある家になりました。倉庫のような自由度のある空間で、かつ家具の中にいるような包まれた感覚もありました。当初のクライアントとの目標であったローコストでかつ短い工期で出来た上、裏のテーマでもあった、住宅のプロトタイプとして敷地形状に併せて家具のように生産できそうな雰囲気も持っていました。
今になって思うのは、初めての家具の設計は、この住宅だったかもしれないと思っています。しかしながらこの建築で出来なかったことは、この空間に合わせて生活を作る家具のデザインです。もちろん、この家のための家具もいくつか作りました。例えばタイヤ付きの押し入れ収納や、吊り戸棚といったものです。しかしながら生活ということに視点を当てた時、空間と家具の関係を柔軟にとらえることが出来ていたかどうかは定かではありません。私はクライアントが持っている家具をレイアウトしただけでした。この空間に見合う家具がもたらす影響についてまで知識も経験もなかったように思います。後編では、空間に対して家具を設計することについて、生活という視点から書いていきます。

株式会社芦沢啓治建築設計事務所
代表取締役 一級建築士
芦沢 啓治
Ashizawa Keiji

1996年横浜国立大学建築学科卒業。卒業後、建築家としてのキャリアをスタートし、super robotでの数年間にわたる家具制作を経て、2005年芦沢啓治建築設計事務所設立。また、2011年東日本大震災を受け地域社会自立支援型公共空間、石巻工房を創立。2014年石巻工房を家具ブランドとして法人化。建築、インテリアだけにとどまらず、国内外の家具ブランドとの協業や、Panasonic homesとのパイロット建築プロジェクトなど幅広い分野で活動を行っている。建築、リノベーションから照明・家具デザインに一貫するフィロソフィー「正直なデザイン/Honest Design」から生み出される作品は、国内外から高く評価されている。
Web https://www.keijidesign.com https://ishinomaki-lab.org
Instagram @keijiashizawadesign