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COLUMN コラム

2021.06.18

建築デザインと家具デザインの関係性
ー 後編 ー(全2回)
株式会社芦沢啓治建築設計事務所
代表取締役 一級建築士
芦沢 啓治 氏

建築家にとって家具のデザインとは何か、建築のデザインと家具のデザインとの関係、生活の視点で見た家具の設計について建築家であり、家具デザイナーとして幅広い分野で活躍する芦沢啓治氏に寄稿いただきました。

前編の記事はこちらからご覧いただけます。

空間と家具をセットで考える

空間において家具は、時にその主従が逆転してしまうほど力強い存在です。空間だけで魅力が伝わらなくても、家具が空間の良さを引き出してくれます。今回は家具とセットで空間を考えた事例を紹介し、家具と建築、空間について考えたいと思います。
ある時期から、私はスタディーのための建築模型に必ず家具を入れるようにしました。どのように家具がその空間と呼応するかを考えるためです。また設計の時間が許す限り家具を特注で作るようになりました。
例えば、近年住宅ではキッチンを家の中心に置く、アイランドキッチンが主流になっています。しかし、キッチンにありがちなピカピカした機械のような物体では、そのまわりの家具だけでなく、壁や床材ともマッチしないことが多々あります。周囲の環境のことを考慮せずにデザインされた既製品のキッチンでは、その家全体のインテリアとの相性がいいわけがありません。当然キッチンは空間を提案する我々がデザインするべきものとなります。使われる材料を、床材や他の家具との相性を考え選ぶことで、トータルに空間を組み上げていくことができるのです。
キッチンに設置されている設備においても、住空間を構成する家具として捉えて初めて空間は整っていきます。当然のこととして、トイレや寝室に入る扉も家具同様に、インテリアを構成するものとして考えていきます。

事例1:dotcom space Tokyo

昨今、事務所内に家具デザインのチームを新設し、より空間と家具について考えるタイミングを得ました。そして、トータルで空間を提案することの重要性をクライアントに訴えることで、家具と空間をセットでデザインする機会を得るようになりました。
最初のチャンスは、原宿にあるカフェ「dotcom space Tokyo」です。名前の通りカフェであると同時にspaceであるため、いかにフレキシブルに空間を使えるようにするかという検討を重ねました。
カフェのテーブルは展示台としても機能するようなニュートラルなものとし、テーブルと脚が切り離せるようになっています。加えてその脚のディテールを使ったスツールと、コーヒーテーブルを作りました。その特徴あるディテールがこの店の空間のリズムを作り、そこに私のデザインしたベンチを設置しました。明らかに通常のカフェとは違う、あっけらかんとした空間ですが、そこにファンが付き、カフェだけでなく貸ギャラリーとしても機能しています。ガランとした空間でありながら、ある種の心地良さを感じるのは、明らかに家具とセットとなった空間の印象によるものだと思います。同様の試みを住環境で試したのが砧テラスです。

事例2:砧テラス

東京都世田谷にある「砧テラス」は、1990年代に作られたマンションです。2019年にこの物件のランドスケープ、外観、そして2つの部屋の内装改修を手掛けました。これらの部屋のモデルルームの設計では、改修のみならず、家具の設計、スタイリングも担当することができました。
家具についてはキッチンなどの作り付け家具だけでなく、椅子やソファーまでデザインすることができました。もちろん、たった2つのマンションの部屋のために特注家具としてソファーをデザインしたり椅子を設計することは、設計者にとってもメーカーにとっても大きな負担です。
空間は100m2以上あり、都内としては比較的大きなマンションの部類に入るものの、メゾネットだったため、一つ一つの空間はさほどゆとりのあるものではありませんでした。そのような空間をより良くするため、家具が果たす役割は大きいと確認できたことは大きな収穫でした。まずキッチンや壁、建具に床材と同じオーク材を使い、家具は国産のナラ材としてトーンを整えました。そして、空間からのヒントやスケール感から、家具のデザインを編み出していきます。
このプロセスとインテリアデザインをデンマークのノームアーキテクツと協業しました。結果は、写真の通りシンプルで心地良く、どこかキリッとする空間となりました。このプロジェクトは、空間として多くの賞賛と支持を得ることができ、今もメディアなどからの問い合わせが多くあります。

家具の再評価

どちらのプロジェクトも、特注でデザインをした家具なしでは評価されなかったのではないかと思います。家具があることで空間の良さを伝えることができ、使い方を想像できる空間になっています。家具のデザインに魅せられて20年が経とうとしていますが、日を追うごとに家具の重要性に気が付きます。
空間と家具を同時にデザインしていくことこそ、質の高い空間、またはそこに暮らす人々へ豊かな空間を提供することになると思います。仕事としては空間デザインと家具デザインの二足の草鞋を履き、より良い環境作りと美しく機能的な家具が、生活を豊かにすることを伝えていければと思っています。

株式会社芦沢啓治建築設計事務所
代表取締役 一級建築士
芦沢 啓治
Ashizawa Keiji

1996年横浜国立大学建築学科卒業。卒業後、建築家としてのキャリアをスタートし、super robotでの数年間にわたる家具制作を経て、2005年芦沢啓治建築設計事務所設立。また、2011年東日本大震災を受け地域社会自立支援型公共空間、石巻工房を創立。2014年石巻工房を家具ブランドとして法人化。建築、インテリアだけにとどまらず、国内外の家具ブランドとの協業や、Panasonic homesとのパイロット建築プロジェクトなど幅広い分野で活動を行っている。建築、リノベーションから照明・家具デザインに一貫するフィロソフィー「正直なデザイン/Honest Design」から生み出される作品は、国内外から高く評価されている。
Web https://www.keijidesign.com https://ishinomaki-lab.org
Instagram @keijiashizawadesign